消化を助ける

人間はヘビのようにかたまりのまま食物を飲み込むことはありません。人間には立派な歯がついているからです。

前歯は物を捕食(つかまえる)のに役立ち、奥歯は物をかみ砕くのに適しています。すなわち奥歯でものを良く噛むことによって食べ物は小さく粉々に粉砕され、食べ物を消化しやすくします。

ペットを飼っていらっしゃる方は動物の歯を良く見てください。人間のものとはずいぶんちがう形をしています。歯が、人間の奥歯の様な形をしている生き物は人間以外あまりいないはずです。私も愛犬を飼っていますが、犬の歯は奥歯まで全部とがっていますし、何より一番違うのは上の歯を下の歯が直接あたる所はありません。上下の歯がガツガツとあたるのは、人間(猿など含む)だけです。実はそれには理由があります。

それは、人間の脳が、他の動物より異常に発達していることと深く関係があります。

噛むことによって、脳の働きが活用になることは後で述べますが、それだけではありません。人間の脳は他の動物と違って巨大で、しかも活発な働きをしているため、ものすごいエネルギーを消費します。そのため、脳には大量の血液が流れていくことになります。

一方、食べ物を食べて、胃で消化する時にも、ものすごいエネルギーが必要となります。食後には胃腸の周りで、血液中の酸素などのエネルギーが大量に消費されるわけですから、脳に行く血液中の酸素濃度が不足し、脳の働きは低下することになるのです。

消化を助け、胃腸に負担をかけない様にすることは、脳の働きを保つ上で重要なことなのです。だから、人間には立派な奥歯が必要なのです。

奥歯が虫歯になったり、抜けたりしていると大変なことです。
お父さん、お母さんも大丈夫ですか…?
もうちょっと補足しますと、みなさんご飯をお腹いっぱい食べると、すぐ眠たくなるでしょ?それも同じ理由です。お腹いっぱい食べ過ぎて、消化にエネルギーをとられすぎると、脳が酸欠状態になって寝むたくなるのです。

カムカムクラブの子供達は、授業中に居眠りなんかしていませんよね。
子供達が健やかに育つ上でも、良く噛むこと、と腹8分目は大切なことなのです。

唾液の分泌が良くなる

噛む回数が増えると、唾液の分泌が増えてきます。この唾液が実はいっぱいいろんな働きをしているのです。

●口の中をうるおして保護する作用
お口の中は人間で最も硬い歯と柔らかい粘膜が同居していますが、喋ったり、食べたりしても、粘膜が傷つかないのは、唾液が口中を潤しているからです。年をとったり、病気や特定の薬を飲んでいて、唾液の分泌が少なくなると口の中に傷ができやすいのはこのためでもあります。

●消化を助ける作用
唾液中には、消化酵素のアミラーゼが含まれています。
アミラーゼは、糖質、デンプンなどを吸収しやすい形に分解する酵素です。
噛む回数が多いほど唾液アミラーゼの分泌も多くなり消化が助けられます。

口の中で食べ物のかたまり、まとまりを作る作用
唾液との混和で適当な食ができるので、飲み込みやすくなります。

●不要なモノ(細菌や食べかすなど)を薄めて洗い流す作用
お口の中の細菌や食べかすなどを希釈し洗い流す働きがあります。
唾液の分泌が多い人はお口の中が汚れにくく、病気にもなりにくいのですが、反対に少ないと汚れがたまりやすく、病気にもなりやすいのです。また人間の体の中に有害物質が入ってきたときには瞬時に大量に唾液が分泌され、希釈されていきます。

●歯にバリアをはって保護する作用
唾液中のタンパク質がペリクルと呼ばれるバリアの様なものを歯の表面に形成し、歯を保護します。

●歯の再石灰化作用
糖質を食べると虫歯菌により酸が発生して、歯の表面が脱灰します(溶けます)。その脱灰して、失われたカルシウムカリンを補い、再び石灰化します。

●外部から侵入してくる細菌から体を守る作用…免疫・抗菌作用
人間の体で外に開いている部分(口、目、鼻)などには外部から侵入してくる細菌などを防ぐ、生体防御機能が働いています。その中心がリゾチームという抗菌作用を持つ酵素です。リゾチームは唾液だけでなく、涙や汗、リンパ腺、鼻粘膜、肝臓、腸など生体に広く分布しており、細菌感染から、生体を守ります。また、唾液中の免疫グロブリン(主にIgA、IgG)もお口の中の細菌に対して様々な防御作業を示しております。

●口の中を常に中世に保とうとする作用…緩衝作用
唾液には口の中をつねに中性に保とうとする働きがあります。酸性、あるいはアルカリ性のものがお口に入っても、10分くらいで元の状態に戻ります。例えば、みんなも大好きなコーラ、実はコーラは強酸です。もし唾液がなければ歯はどんどん溶けていきます。でもこの緩衝作用のおかげで、私達の歯は溶けずにすむのです。だからといって、だらだら飲んだり、大量に飲んだりしたら緩衝能力を超えてしまうので、歯が溶けてしまいます。

顎を強くし、顔形の正しい発育を促す

当たり前のことですが、筋肉は使われないと委縮し、使うと発達します。
そして、特に成長期のお子様は筋肉の発育に伴い、骨格も発育していくのです。したがって、良く噛むなどして、口の周りの筋肉を鍛えなければ顔の形も正常に発育してくれないのです。つまり、かっこいい男の人やきれいな女性になりたければよく咬んで物を食べなければなりません。

ここで筋肉の使用と、骨格の影響について1つのエピソードをお話します。それは、宇宙飛行士の話です。

最近は、スペースシャトルで簡単に宇宙に行けるようになりました。1~2週間程、宇宙に滞在することになるのですが、そうすると宇宙飛行士は、地球に帰ってきたあとなかなかすぐには立ち上がることができません。しばらくの間、重力の影響を受けずに生活していた彼らの筋肉の力は弱まってしまい、まともに重力に対抗することができないのです。宇宙に行く前に、あんなにトレーニングしていた宇宙飛行士でさえ、たった1~2週間筋肉に負担がかからないと、歩くことすらままならなくなるのです。

お口に周りの筋肉だってそうです。毎日コツコツと鍛えていれば(別に筋トレとかしなくても、よく咬むだけでもだいぶ違う)正常に発育していきますが、さぼると、筋肉は重力に負けてしまい、への字口で、タレ目でいつもポカンと口が開いてしまう様な顔になってしまうのです。
今日からよく咬んで食べましょう。

脳の働きを活発にする

よく咬むことと、脳の働きが活発になることと、いったいどういう関係があるのだろう。

実は大いに関係があります。人間のお口の周囲を支配している神経はすべて脳神経と言って、脳と直接つながっています。つまり、お口の周囲の筋肉が動けば、神経からの信号は直接、脳に送られ、脳は刺激を受けることになります。人間の体は(先程の筋肉もそうですが)刺激をうけることによって発育していくので、咬むことによって脳は発育していくのです。

また、咬むために使われる筋肉ばかりでなく、顔の表情を作っている筋肉(表情筋)は特に脳の前頭葉と呼ばれる、高度な行動をつかさどる領域を刺激すると言われています。子供達が表情豊かに成長してくれれば、かしこい子供達が増えるのではないかと思います。

食材の異物を発見し、排除する

もし、何も咬まずに丸飲みすれば、体の中に異物が混入してしまいますが、よく咬んで食べていると、例えば石などが混入していたとしても咬んだ時の感触で異物と判断し、外にはき出します。当たり前のことですが、これも大切な効用なのです。

人間の五感は、まず第1にその人にとって、有害か無害かもっと言えば危険か安全かを見分けるためにそなわっています。視覚も味覚も、触覚も、みんなそうです。もともとはおいしいとか、食感がすばらしいとか感じるためにそなわった機能ではないのです。私の愛犬に新しく食べる食べ物を与えると、必ず1、2回咬んだ後吐き出し、その物が自分にとって有害ではないことを確かめてから食べ始めます。

人間は忘れかけている機能ではありますが、万が一に備えて良く咬んで食べることは重要なことなのです。

今回は、いろいろと難しいことを書いてきたので皆様、頭が混乱しているかもしれません。
しかし、要点は1つだけです。実にシンプルです。
それは
良く咬んで食べるといいことがいっぱいある。
ということです。理屈は分からなくていいので、これだけは覚えてくださいね。

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