スリランカ

●フレッシュなハーブとココナッツミルクを多用。

スリランカは、人口の約7割を占める仏教徒の多いシンハラ人をはじめ、ヒンドゥー教徒のタミル人、かつてアラブなどから貿易商としてやってきて居ついたイスラム教徒ムーア人の血を引く人々、オランダやポルトガルなどヨーロッパ人を先祖に持つバーガー人、そして熱帯雨林に暮らす先住民族ワニヤラ.・アットゥらが暮らす国。それぞれの食に特色がありますが、共通しているのはココナッツミルクやココナッツオイル、またグリーンチリやカレーリーフ、ランぺ(パンダンリーフ)、タマリンドジュースなどのフレッシュハーブ、調味料を日常的に多用することです。沿岸部では「モルディブフィッシュ」というかつお節によく似た魚のだしもポピュラーです。シンハラ系の料理の代表格は、朝食の定番で、サンバルというスパイスの付け合せと食べる米粉とココナッツミルクのパンケーキ「ホッパー」や、骨付き肉を使った「チキンカレー」、タミル系は魚の頭やエビなどを使ったスリランカ版カレー風味のブイヤベース「クール」、バーガー系はカレー風味の丸いコロッケ「カトレット」などが挙げられます。また孤立した地で独自の文化を育んできたワニヤラ.・アットゥの人々の料理は、干した野生の小動物の肉やジャングルのハーブ、雑穀の粉を煮込んだ「ダダマス・アアナマ」など、エコロジカルでシンプルな点が特徴的です。

インド

●東西南北に分かれた地域で違う、多種多様なスパイスと食文化。

日本の約9倍の国土面積に12億以上の人口を抱え、公用語のヒンディー語、英語のほか民族ごとの30以上の言語、約8割を占めるヒンドゥー教のほか、イスラム教、キリスト教、シク教、仏教などさまざまな宗教が信仰されているインド。ラジャスターンの灼熱の砂漠から冷涼なヒマラヤ山麓まで気候も多様で、まさに「小宇宙」と呼ぶにふさわしいこの国は、誰もが認めるカレーの”発祥地”でもあります。

しかし、当のインドの人々は本来、自分たちの料理を「カレー」とは呼びません。インドの食事はスパイスをふんだんに使うのが当然であって、インド伝統医学アーユルヴェーダのスパイスの効能を活かした「病気は台所で治す(医食同源)」という理念のもと、広大な国土の多種多様な地域性や民族性に培われた、ひとことで言い表せないほど奥深いもの。カレーというのはそもそも、ヨーロッパ人が呼称した言葉だったのでした。

インドの国土は大まかに、東西南北の4つ(または北東インドを加えて5つ)の地域に分けられます。首都ニューデリーのある北インドは、16世紀からおよそ300年間、トルコ系イスラム王朝ムガール帝国の支配下にあり、アフガニスタンやペルシャの影響を受けて、小麦から作るナンやチャパティを主食にしてきました。シナモンやクローブ、ナツメッグ、ガラムマサラを使った、どろっと濃厚なカレーが特徴的です。イスラムの影響により、肉料理の種類も豊富です。「ムルグマッカーニ(バターチキンカレー)」や「キーママター(キーマカレー)」、「タンドリチキン」、「パラクパニール(ほうれん草とチーズのカレー)」などが代表格。それに対して、アーユルヴェーダのお膝元で、インド古来のドラヴィダ文化が今も息づく南インドは、米を主食に、カレーリーフやマスタードシード、ココナッツミルクを多用したさらっとしたカレーがよく食べられています。野菜とヨーグルトのカレー「アヴィヤル」や、辛みと酸味のきいたタマリンドや黒コショウ、トマトなどのスープ「ラッサム」、スパイスで炒めたじゃがいもなどを豆粉のクレープで包んだ「マサラドーサ」、またバナナの葉の上にさまざまなおかずを乗せた定食「ミールス」などがポピュラーです。またアラビア海側のマラバル海岸は、紀元前から栽培されていたこしょうを求めて16世紀にポルトガルの航海者バスコ・ダ・ガマが上陸した地であり、今もなお良質なこしょうが生産されています。
東インドは、コルカタ(カルカッタ)周辺の「ベンガル料理」がよく知られており、米を主食に魚をよく食べる、日本とよく似た食文化です。マスタードオイル、マスタードシード、ターメリックなどを使った「マチェル・ジョル(ベンガルフィッシュカレー)」が有名です。また西インドは、厳格な菜食を教義とするジャイナ教のお膝元グジャラート州の定食「グジャラティターリ」が名物。マハトマ・ガンジーの出身地でもあり、彼はヒンドゥー教徒でありながら、この地の食文化の影響を受けて厳しい菜食主義を守っていたといいます。ジャイナ教ではターメリックやしょうが、にんにくなど、植物の命の源と考える根のスパイスやハーブもタブーなのですが、乳製品や砂糖は摂ることが可能で、限られた食材をおいしく食べる補強材になっています。なお西インドでは、小麦のパンと米の両方が主食です。

宗教別に料理の特色を見ていくと、まずヒンドゥー教は、牛を神聖視しているため、牛肉は食べません。カーストによる身分制度があり、地域差もありますが、特に高位カーストの人々は肉食自体を避け、厳格な菜食主義を守る傾向にあります。またイスラム教は豚肉を禁忌としていますが、インドではヒンドゥーの影響で牛肉自体が手に入りにくいこともあり、鶏肉や羊肉のカレーが多く見られます。仏教では肉食自体は禁じられていませんが、好んで肉食をする人は少なく、刺激の強いスパイスも避けられる傾向にあります。キリスト教も肉食を禁じておらず、カトリック教徒の多い旧ポルトガル領のゴアなどでは、牛肉や豚肉を使ったカレーもあります。北部のパンジャブ州を拠点としているシク教には、一部宗派を除き食べ物の禁忌は特にありませんが、どんな宗教の人も入れるシク寺院では、誰もが食べられるように菜食の食事を提供しています。なおインドを含めた南アジアや西アジアでは伝統的に、宗教を問わず右手で食事をする文化が息づいてきました。理由は衛生面(左手が不浄といわれる)のほか、食べ物は神から与えられた神聖なものであり、道具を使うのは失礼に当たるという概念があるためです。

タイ

●たっぷりの生ハーブと発酵調味料のコク。

東南アジア諸国が欧米列強の植民地となる中で、唯一、1238年の建国以来、独立を守り抜いてきたタイは、その食文化も近年まで謎めいた存在で、海外ではほとんど知られていませんでした。インドやマレー料理の流れを汲むように見えて、実はハーブや発酵調味料などを多用したまったく独自のその味わいは、現在では欧米や日本をはじめ、世界に知られるようになって、人々を魅了しています。中でも、こぶみかんの葉(カフェライムリーフ)やレモングラスなどのフレッシュハーブとともに、ココナッツミルク、とうがらし、シュリンプペーストや魚醤(ナンプラー)、パームシュガーなどで味付けし、辛さやマイルドさ、コク味が複雑に絡み合う「ゲーン」と呼ばれる汁カレーは、まさにタイ料理の傑作です。ハーブの調合によって「グリーンカレー」「レッドカレー」などとも呼ばれます。タイは人口の95%が仏教徒(上座部仏教)であり、僧侶以外には特に食の禁忌はありませんが、南部には人口の5%を占めるイスラム教徒が暮らしており、ハラールフードを使った独自の料理が発展しています。特に、カルダモンやシナモンスティック、クローブ、コリアンダーシード、クミン、ナツメッグなどと、レモングラス、シュリンプペースト、魚醤(ナンプラー)、さらにピーナツペーストやココナッツミルクを使った「マッサマンカレー」は、ムスリムであるアラブ商人がタイに伝えたスパイスと、タイ土着のハーブや調味料の両方がふんだんに使われた、タイ南部ならではの何とも贅沢なカレーです。2011年には、アメリカのCNNインターナショナルのCNNGoにより「世界一おいしい料理」に選ばれました。

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